第4回アートでオン!フォーラム 「新しい広場をつくる」平田オリザ氏講演内容
第4回アートでオン!フォーラム「新しい広場をつくる」
●日時:2015年10月31日(土)18:30~21:00
●基調講演:19:30~20:00
●会場:新町キューブ グランパレ
●講師:平田 オリザ 氏
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どうも、こんばんは、平田です。
知った顔が沢山いまして、青森市との関係は亡くなられた牧良介さんとのお付き合いが始まってからなので、ちょうど今年で25年、四半世紀になるくらい沢山寄らせていただいてます。先月は弘前大学で3日間集中講義をしてまいりました。また毎年八戸東高校でも、授業をしております。
今日はですね。「新しい広場をつくる」話をするのですが、30分しかありませんので、ちょっと無理なので、新しい広場をつくるという題名の本が岩波書店からでてますので、そちらを買って頂くといいかなって思ってるんですけど。それでその本に理論的なことも書いていますが、理論的なことを言い始めると時間がかかるので、その本に書いてない話をします。やはり今日はアートに関係のあるみなさんがおいでになってくれて、みなさんはですね。アート大事だ、アートいいよね、子供のころから、そういうのに触れさせるのが大事だよね。というのを重々わかっていますよね。ただ、ここで内輪で盛り上がっているだけではダメなわけです。ですからアートは大事だけども、今青森市も予算厳しいでしょうから、本当に大事なのかと、そういうことを考えている人たちにもどうすれば説得できるかっていう話をしていきたい。
普段からこういう文化政策とか文化情勢に関する講演会が多いんですけども、昨年の秋ぐらいから今年の春、夏ぐらいまで、非常に自治体の県知事さんとか市長さんからしょっちゅう呼ばれる。なんか話聞かせてくれ、ちょっと時間とってくれとの相談が急に増えました。それは地方創生です。政府が地方創生の予算を付けるので、なんかアイディアないか。人口減少に対してなんかアイディアないか。人口減少問題をですね。劇作家に聞くようになるとこの国も終わりだなと思うんですけど。
僕が良く説明をしてきたんですけど、スキー人口はですね。この20年で半分以下になってます。スノボ足してもですね。スキー人口はもうすごいですね、1/3以下なんです。スノボ足しても半分以下です。青森県もスキー場を抱えていますから、大変深刻な問題になっているんですけど。なんでスキー人口が減ったのか、それはですね。若者人口の減少があげられます。ただ若者人口が減った、減ったといっても2割しか減っていない、2割って言っても1000万減ったわけですから、大変ですけど、29歳以下の人口が20年間で1000万人減っているけど、そうはいっても2割しか減っていない、スキー人口は半減しました。なぜかというと趣味の多様化とか、あるいは若い人が根性ないので寒いのが嫌がる。いろんな理由があります。
どんな観光学者、社会学者、統計学者でも、みんなおっしゃるのは「若者人口が減ったからスキー人口が減ったんだ」。でも劇作家はそうは考えないです。「若者人口が減ったからスキー人口が減ったじゃないんです」。「スキー人口が減ったから若者人口が減ったんです」。大事な点なのでもう一回言いますよ。「スキー人口が減ったから若者人口が減ったんです」。90年代半ばまで、スキーは20台男子が女性を一泊旅行に誘うもっとも合理的な手段でした。これが減ったらどんどん人口は減るでしょ。いつ出会うんですか。
もちろん、スキーは象徴的なものなんですけど、テニスの人口も、海水浴場の人口も減っているんです。たとえば今日はまちづくりの話になると思うんですけど、街の中に古本屋とかジャズ喫茶とかライブハウスとか、そういう若者たちの出会いの場、居場所を一切奪っておいて、少子化だ、人口減少だっていって、行政が慌てて慣れない婚活パーティをしているのが今の状況です。
要するに、アートとか文化というのは人間の心を活性化して、それだけではなく男女を出会わせたりとか、なんか恋愛に走らせたりとか、間違いをおかさせたりとか、そういう役割をずっと果たしてきたわけですよね。
そういうもの奪っておいて人口減少だ、大変だといっても解決にならないわけです。
ご存知のように、人口減少対策、都市の課題はライフワークバランスですね。
たとえば待機児童解消とかが問題になるわけです。それは霞が関の目線です。待機児童、確かに深刻です。しかし、待機児童を抱えている自治体は200、多く見積もっても300に過ぎない。残りの1300の自治体は待機児童を抱えてない。どちらかというと児童欲しいほうでしょ。要するに東京の考えている対策と、地方の問題は違うわけですね。地方は非婚化晩婚化の問題なんのです。実際に結婚した世帯の出産率はあまり変わっていないですね。東京では一人しか育てられないけれども、地方では結婚してから二人、三人生む家庭の方が多いです。でももう若い女性は口をそろえて出会いがない。特に偶然の出会いがないと言う。イオンでは恋が生まれないんです。古本屋さんとかで、今の安めの韓流ドラマで必ずあるでしょ。本を落として、同じ物落として、拾って手が触っちゃったみたいな。ああいうのがないとダメなんです。要するに広い意味でそういう文化的な施設、青森市にはまだ残っているかも知れませんが、青森、弘前、八戸レベルの街だったらですね、昔は本屋さんとか必ずあったと思うんですね。ちょっと並びのおかしい本屋さんとかあったかと思うんです。そのお父さんは大体、東京で天井桟敷に3年いました、寺山さんに騙されてみたいな人が、そこで挫折して戻ってきて親のあとを継いで本屋さんになった。商店街は基本的に潜在能力があるところなので、昔は日銭を稼げればやっていけたんですね。私も東京生まれ、東京育ちですが、駒場という小さな商店街の中で育ったもんですからよく分かります。家賃がいらない商売、日銭さえ稼げれば大丈夫なんですね。だから昔の本屋さんというのは雑誌を売って生計をたてていて、あとは好きな本ならべてればよかった。しかし、今皆さん雑誌はコンビニで買うでしょ。本はアマゾンでも手に入るわけですよね。だからそういう変わった本屋さんとかも、もう東京や大阪、大都会でしか成立しなくなってしまった。要するに地方ほど無駄を許容できなくなってしまっているですね。私達、幻想があるのだと思う、地方、田舎はいいんだ、経済面は大変だけど、のんびりして人情が厚くて、暮らしやすいんだ。そうだったかもしれないけれども、免疫にないところにインフルエンザが入って来るようなもんで、市場原理が入って来るといっきに根絶やしにされちゃうわけですね。イオンの悪口ばかり言ってもしょうがないですけども、実際今専門家の間では「イオンは無邪気に出店し、無邪気に退店する」。まったくイオンに悪気はないです。私の母方のふるさと、大館なんですけども、大館が故郷の方もいらっしゃるかと思いますが、青森市以外の東北の町は駅と商店街は離れてますね。大館も八戸市みたいに離れている。駅と商店街の間にイオンできました。それで商店街当然寂れました。通行量減りました。イオン退店しました。なんにものこらない。ペンペン草もはえない。
実は今これ被災地で全部おこっている現象ですけど、イオン、ジャスコどんどん出店している。でもおそらく復興対策のお金が引いたら、全部大体平均10数年で退店するといわれている。最短で3年で退店したケースもある。でもこれまったくイオン悪気ない。
イオンは通行量調査で出店し、通行量調査で退店している。市場原理だけで出店し、市場原理だけで退店する。昔の、たとえば青森ではみちのく銀行とか古い銀行さんとか古いデパートさんの建物って、凄いきちんとした石造りの建物で、要するにその地域で50年100年商売しようと思ったら、そういう建物建てるはずなんです。
僕今日新青森から七号線沿いを車でこちらまで連れてきていただいて、もうひどいですよね。全部プレハブみたいですよ。要するに退店することを条件に、その地域から全部お金を吸い上げたら退店することを条件に建ててる。
じゃあ、そういう地方になっていいのか。そういう居場所が文化を支えてきたんだと思うんですよね。普段、無口なおじさんが、子供が立ち読みしてると、ツカツカツカって、お前ももうそろそろいい年なんだから、そろそろツルゲーネフだろう。もう仕入といたよ。というお節介をしてくれて、そういうのが、地方の文学少年、文学青年を支えてきたんじゃないか。あるいわそれが、先ほど申し上げた通り、ジャズ喫茶であったり、画廊であったり、写真館であったり、そういうところが、地方の文化を支えてきたじゃないかと思うのですが、そういうものが、地方で支えきれなくなってきた。そこでそういうものをNPOが代わりに行う時代になってきた。
たとえばNPOでジャズ喫茶をやってもらう。それを行政が支援する。小さなものを沢山出店していくような文化行政に在り方を変えていかなければ、もう皆さん、重々わかっているかもしれませんが、もう大きなものいらないでしょ、沢山あるし青森市、そうするとそういうものが必要になって来る。
もうひとつ、今日は秋田の国際教養大学で午前中ずっと授業してましたけど、先月は弘前大学で3日間授業しています。昨日は高松、香川県から依頼があっていったんですけど、今演劇のワークショップをつかった、こちらではなべげんさんの畑澤聖悟さんなどが沢山やられてらっしゃいますけど、こういうのが急速に増えています。
特に東京の中高一貫校ではアクティブラーニングと呼ばれる、こういう授業が非常に増えています。ワークショップ型、ディスカッション型。もちろん、いくつかこういうのは教育に波があるんですね、ゆとり教育になったり、基礎学力になったりしています。
それでここ数年の流れを決定づけたのはこの大学入試改革です。皆さんもご承知かと思いますけども、5年後にセンター試験が廃止されて、基礎的な知識を問うような非常に簡単な学力試験。持ち点制でAランク、Bランクとなるわけです。その持ち点を用いて、各大学の門を叩く、各大学の2次試験は潜在的な学習能力を問うような試験をしなさい。というのが文科省の指針です。潜在的学習能力、要するに大学でどれだけ伸びるかを図るものです。大学でどれだけ伸びるかなんてわからないだろう、なんだって思われるかもしれませんが、一応文科省の指針はこういうことです。ここら辺は今までありましたね、思考力、判断力、表現力。最近強く言われている主体性、多様性、多様性理解、協働性、共に働く力。こういうものを図る試験をしなさい。こういうのを図る試験とはどういうものか。
実は昨日、四国学院大学では前倒し実施で、指定校推薦の対象だけですけれども、新しい入試を行いました。どういう入試か、事前に公表してあります。たとえば、こうゆうものです。レゴで巨大な船をつくる。実際に数年前にオックスフォードで出た問題です。
これ単純なんですけども、設計図を描いて、作業の手順を決めて、役割分担をして、途中で間に合わなくなったら変更して、しかも地道な手作業も厭わない。いろんな能力が要求されます。
これは実際高校でやろうとしている授業ですけど、AKBとももクロと妖怪ウォッチのダンスを実際に踊ってみて、そのビジネスモデルの違いについて考える。これですね。AKBはみんなで踊れるダンスなんですね。だから恋するフォーチューンクッキーとかがyoutubeにでている。ももクロは応援型のアイドルなんで、ちょっと汗をかく、大変そうに見える踊りじゃないとだめなんですね。妖怪ウォッチはもっと小さい子。もっと簡単なダンスになります。これはビジネスモデルと直結しているわけです。AKBは薄く広くCDを売る商売ですね。ももクロはですね。10万人のファンクラブを囲って、一人一人がライブで一万円ぐらいのグッツを買っていく。それで儲ける商売ですね。妖怪ウォッチは子供が買うわけじゃないですね。お父さんお母さんあるいは、おじいちゃんおばあちゃんが買う。だからおじいちゃんおばあちゃんから見て可愛いダンスでなければならない。こういうように、ダンスとビジネスモデルは直結しているわけです。これ実際高校で国語と体育の先生が、協同してやる、じゃあ自分の好きなアイドルはどのタイプだろうか、あるいは自分たちで新しいアイドルをプロデュースする。こういう授業です。あるいはそういう試験問題がこれから出る可能性がある。実際ここではこういうものの指標を作って、たとえば、1時間とか1時間半で演劇とかを創る。あるいはレゴで戦車を創る。そういうのに教員が張り付いて評価をします。
実は昨日最初の試験でした。昨日の試験の中でこういう問題を出しました。
以下の題材で、ディスカッションドラマを作りなさい。
『2030年、日本の財政状況はされに悪化し、ついに債務不履行(デフォルト)を宣言する直前まで進みました。日本国政府は国際通貨基金(IMF)からの支援を受け入れることとなり、その条件として厳しい財政健全化策をとることとなります。
国際通貨基金からの要請の一つに、多大な維持費がかかる本四架橋のうち2本を廃止し、1本だけ残すという提案がありました。
関係各県を代表して、どの橋を残すかを議論するディスカッションドラマを作りなさい。
登場する県は、香川県、徳島県、愛媛県、兵庫県、岡山県、広島県になります』。
これのドラマを1時間で創って発表する。そのドラマを創る過程が評価される。
それで、実際こういう議論をしているわけです。そこにパソコンを2台おいといて、途中で必要があれば検索して調べてもいい。要するにもう鎌倉幕府が何年にできたか覚えてなくていいですよね。検索すればいい。覚えている意味なんもないですよね。だからそのときに持っている知識は関係なくて、検索できる能力があればいい。
だがそれが2台しか置いてない。8人のグループに2台しかない。だれが検索するの。一緒に検索するのか、検索係と議論する人を分けるのか。そういう能力が問われる。でも普通の会社ってそうですよね。皆さんが暮らしている社会ではそうですね。
ちなみに弘前大学からは要請があったので、どういう試験でやっているか。
全部弘前大学に情報を提供しています。今年からAO入試のこういうタイプのものが一部始まっています。来年以降徐々にこれ広がっています。ということは演劇をやらないと弘大にはいれないという時代が来るかもしれない。もうだからアートいいねとか演劇もいいねとかいってる時代じゃないということです。
私達が一番心配しているのは地域間格差ですね。この大学入試改革の全体の方向が間違っていない。でも今のままで行くと明らかに東京の中高一貫校が圧倒的有利になってしまう。
東京の中高一貫校の子しか、もう東大にいけなくなるんじゃないか。と考えています。
今東京の中高一貫校はこういう面白い事業沢山やっているんです。
たとえばですね。今秋篠宮さまの長男の子がいっているお茶の水は、私達の業界の間で、もっとも尖がった授業をやっている学校の一つと言われていて、あそこは3年生から「市民」という科目があるんですね。5.6年生になると、日韓併合について習って、それで日本人と韓国人の両方の立場に立って劇をつくるような授業を普通にやっている。
そういう学校沢山あるんですね。
私、大阪大学の大学院の方でこういう新しい入試を実際に任されていて、奨学金制度の試験なんですけど、実際そこには潤沢な研究費があったので、40人を20人に絞る試験だったんですけど、2泊3日で40人をホテルに缶詰めにして演劇をつくる試験とか、翌年は映画をつくる試験。その翌年はノーベル賞学者の朝永振一郎先生の「光子の裁判」光の性質をあらわす戯曲を書いてらっしゃる。それを読んで紙芝居をつくる、そういう試験をやってきたんです。で、そういうのを創るために、20人くらい教員が集まって、最初に私が責任者だったので、担当の先生方に宇宙兄弟というマンガがあるんですが、これを全巻買って読んでくださいとお願いしました。宇宙兄弟ご存知の方が多いかと思うですが、ジャクサ、ナサの宇宙飛行士を作っていく試験の過程が描かれているマンガです。今までの日本の試験は、その時点での知識や情報の量を問うて、上から20番合格、21番以降不合格としています。ジャクサやナサの試験はそうじゃないですね。あれは仲間を集める試験、クルーを集める試験。だから共同体が落ち込んでいるときにジョークをいって励ませるか、新しいアイディアで危機を乗り越えられるか、あるいは地道な作業をいとわないか、長所もあれば短所を補う努力も必要。いろんなことを見て、総合的に仲間を集める試験。
これからの日本の大学そうなっていきます。
要するに、自分達は誰と学びたいのか、これは友達だけでなく、職員や教諭も含めて、誰と学びたいか。どうゆう学びの共同体をつくるか。ていうことが大学の責任になる。
大学側がミッションステイトメントという、自分の大学はこういう大学ですよというものを示して、そのためにどうゆう仲間を集めますよっていう試験をしていかなければならない。私このために世界中の大学の入試制度を調べました。各大学の担当者が口をそろえて言うのが、受験の準備を出来ない問題を毎年考えるのが難しい。受験の準備が出来ない問題を毎年考える。ですから国語の先生方は大変ですよね。今までみたいな受験指導ができなくなる。弘前大学入ろうと思うなら英単語なら3500覚えなきゃならない、東北大学なら4000、東大なら5000だ。それでA判定、B判定、C判定、今までは出たんですよ。でも、レゴで戦車をつくるのにA判定もB判定ないですからね。要するに、今の言葉でいえば、地頭を問うような試験になっている。1.2年の受験対策では無理で、小学生の内からこういうことを沢山経験させてないと、受からない試験になっている。だったら東京の子、圧倒的に有利じゃないですか。
たとえば港区はですね。昨年から、小学生4年生かな。サントリーホールから無料で招待されて、クラシック音楽を聞くことになっています。去年はたしか大野和士率いるリヨン交響楽団を聞いたと思うですけど、港区の子供にそんなことする必要ないだろうと思いますけど、みんな富裕層の子供たちですから。被災地の子供たち招待してやれと思いますが、港区に悪気ないんですね。サントリーホールは港区にあって、サントリーホールは地域還元でやっている事業ですから。
杉並区は佐藤信さん演出の毬谷友子さん主演の児童劇を全員無料で見ます。
みんなそういうことで、ただ単にアートに触れるのでなく、超一流のアートに常に触れる機会を完全に保障されている。こういうものを文化資本と言います。社会学の世界では文化資本、厳密に言うと3つあります。一つは努力で獲得できるものですね。学歴とか資格とか。もう一つは経済力で獲得できるものですね。蔵書とかですね。一番大事なのは身体的文化資本という風に言われています。これはセンスとかマナーですね。これだいたい20歳くらいまでに形成される。と言われています。一番早いのは味覚ですね。子供の内にファストフードみたいな味の濃い、画一的なものばかり食べさせていると、味蕾が潰れちゃって、細かい味の見分けができなくなると言われています。おそらく音感なんかもそのぐらい早く形成される。まあ言語活動なんかもうちょっと余裕があるので、たぶん20歳ぐらいまでに形成される。文化資本は基本的にいいもの、本物に触れる以外に育てようがない。子供に味覚を覚えさせるのに、美味しいものと不味いものを両方食べさせて、こっち美味しいよねって教える親はいないです。美味しいものを徹底的に食べさせる。自然食品を徹底的に食べさせることによって、危険なものをペッと吐きだす能力が育つ。もっと分かりやすく言うと茶道の焼き物ですね。「いい仕事してますなぁ」みたいなの。目利きを作る。あれは、ともかく徹底的にいいものだけを見せ続ける。
要するに、論理的にいいものと悪いもので比較して、どっちがいいよねって教えるんじゃなく、徹底的にいいものを見せる。そうすると必ず偽物がわかるようになるのです。
アートって本来そういうものですよね。そうすると、子供の頃に超一流のものに徹底的に触れるっていうのが大事になってくる。そうすると東京が圧倒的に有利になってしまいます。だからこそ、地方ほど文化政策をきちんとやらなければならない。
要するに日本は140年かけて教育の地域間格差のない素晴らしい国を創ってきた。しかし、今、文化資本の格差により、もう一回格差が表れてきた。しかも文化資本の格差はですね。ひとつは地域間の格差、もう一つは経済ですね。教育と経済の格差の連関は、皆さん新聞等で見てると思うんですけど、でも文化資本の経済格差の方がより深刻だと思います。だって教育の格差はそうはいっても発見できるじゃないですか。学校があるんだから。
この子頭いいのに、いい子なのに、ちょっと可哀想だな。塾行かせられなくて可哀想だな。どうにかしよう。奨学金どうにかしよう。みんな考えますよね。でも親がコンサートや美術館に行く習慣がなかったら、自分だけでは子供は絶対に行かないんです。だからこの経済格差による文化格差はスパイラル状に広がっていってしまう。要するに今地域間格差と経済の格差によって、この二つの格差で文化資本の格差がものすごい広がっている。厳しい言い方すると、要するに貧乏な田舎者は芸術に触れなくていいってことになる。でもこの文化資本の格差が、大学進学や就職に直結する時代にこれからなっていく。だからこそ地方自治体こそ、芸術文化をしっかりやっていかないと逆に地域の競争力がなくなってしまいますよということなんですね。
最近、昨日か一昨日ですかね、菊池桃子さんが一億総活躍社会の委員になって、一億総活躍社会がわかりにくいからソーシャルインクルージョンの方がいいんじゃないですかと、ちゃぶ台返しをして、話題になりましたが、ソーシャルインクルージョン。要するに、今まで排除されてきた、文化から遠ざけられてきた人を文化によって社会に繋ぎ止めるという考え方。一番分かりやすいのは、ヨーロッパで多く行われているホームレスプロジェクト。ホームレスの方を美術館や劇場に招待したりする。ホームレスの方っていうのは経済的な理由だけでなくって、精神的な理由でホームレスになっているので、少しでもアートとかそういうのに触れることによって生きていく気力とか労働力を取り戻していく。これ一番分かりやすい例です。
たとえばこういう例もあります。私の経営するこまばアゴラ劇場というのは数年前から失業保険の受給者に大幅な割引をしています。これヨーロッパの劇場や美術館ではどこでもやっている政策ですけど、日本でやっているところはまだほとんどない状態、日本は逆の政策をしてきたんですね。雇用保険受給者や生活保護世帯が昼間にお芝居を観にきたり、映画観にきたりしたら、求職活動を怠っていると切っちゃう政策、それも理由があったと思うんですよ。高度経済成長の頃であれば、景気変動の波はあるけど、半年も我慢すればみんなどうにか就職できた。どうにか就職できる時代の雇用政策なんですね。今の日本の問題は先が見えないってことですね。なかなか自分に合った仕事が見つからない。それで、精神的にも落ち込んでいく。
たとえば、日本の社会問題の一つに中高年の男性の孤独死、孤立死がありますね。孤独死、孤立死は社会全体の大きなリスクとコストになっています。その部屋は臭くなるわ、まわりの人のショックは大きいわ。要するにそうなってくると勝ち組であるはずの不動産所有者にとっても、個人では負えないようなリスクとコストになる。だから私達は考え方を変えなきゃいけない。
雇用保険受給者、失業している方や生活保護世帯の方が、昼間に映画館や劇場にきてくれた。失業しているのに劇場に来てくれてありがとう。社会とつながっていてくれてありがとう。孤立しないでいてくれてありがとう。その方が最終的に社会全体のコストもリスクも下がるからね。私達のコストも下がるからね。税金をそこに使わなくてよくなるからね。だからアートが人を繋ぎ、人を孤立させない役割を果たす。全然夢物語でも何でもなくって。
たとえば私が良く仕事しているパリのジュヌビリエって近郊の町があります。
ここは移民の街なんですけれども、劇場の下にカフェスペースがあります。誰でもはいれるんです。マッキントッシュのコンピュータが10台くらい置いてあります。これ自由に使えます。午後3時くらいになると、近所の子供たちが集まってきます。
要するに家でパソコンが買えない世帯の子供たち。ずっとマックで遊んでるんですね。マンガみたり、ちょっとエッチサイトみたり。でもそれでもいいんです。なぜなら、劇場から一歩外に出たら薬物汚染や青少年犯罪が待っているから、劇場来てくれてありがとう。そのうち慣れてきたら、じゃあ、ちょっとヒップホップのワークショップがあるんだけどもやってみないって誘ってみる。居場所と出番という考え方。まず若者たち、子供たちの居場所をつくって、その次に社会参加のつながりをつくるっていう。文化芸術の役割、人を繋いでいく、文化芸術の役割っていうのは非常に大きいし、これからの自治体運営になくてなくてはならないものになっていく。
是非ですね、みなさんの活動をですね。みなさんが楽しむことがまず一番大事なんです。
みなさんが楽しくないことは若者たち、子供たち楽しめるわけがない。みなさんの楽しみを是非、外に広げて行って、青森市にとってなくてはならない、みなさんが青森市にとってなくてはならない存在になっていただければなと思います。
非常に駆け足でしたが、このあとまたラウンドテーブルあると思いますので、なにかあればお伺いしたいと思います。どうもありがとうございました。