「カルチュラル・オリンピアード 青森におけるアート政策の可能性」湯浅真奈美氏講演(H25年度)
第3回アートでオン!フォーラム
「カルチュラル・オリンピアード 青森におけるアート政策の可能性」
日時:2015年3月8日(日)14:00~17:00
基調講演:14:10~15:35
会場:BLACKBOX 2F BLACKHALL
講師:ブリティッシュ・カウンシル アーツ部長 湯浅 真奈美 氏
≪概略≫
みなさまこんにちはブリティッシュ・カウンシルの湯浅と申します。本日はどうぞよろしくお願い致します。
今日は、英国では文化が都市の中でどのような位置づけにあって、2012年オリンピックの前後にかけてどのような変化があったか、それを踏まえ、青森型の文化を通した街づくりとはどういったものかということを皆さんと一緒にお話ししたいと思います。
私たちの組織であるブリティッシュ・カウンシルは、世界の100カ国以上の地域に拠点があり、主に英国とそのほかの国々の方々との経験やアイディアなどを共有しながら、信頼関係を作っていくことで未来へ進んでいこう、というのが組織のヴィジョンです。活動分野としては教育、英語、そして、私が担当させていただいているのが、文化芸術アートになります。
○ 文化政策・文化振興の中、英国がオリンピックをどのように位置づけて、どういったヴィジョンを持って臨んだのか。
アーツカウンシルは、英国ではもう70年近く前からあり、2010年から2020年までの戦略的ヴィジョン「Great art and culture for everyone=優れた文化芸術をすべての人に」が根幹にあります。
これを達成するために、5つの目標、ゴールというのを掲げています。
素晴らしい優れた文化芸術をすべての人々に届けるためには、
1番目に、素晴らしい芸術活動というものを行わなければいけない
2番目に、それがすべての人に届くということを担保しなければいけない
3番目に、文化芸術分野は力強く、持続可能でなければいけない
4番目に、その文化芸術分野で働く人材は多様性があり、必要なスキル・技能をもっていること
5番目に、若い子どもたち、次の世代の人たちにインスピレーションを与えていく
この2010年は政権交代があり、国が大きく変わっていった時期で、英国は非常に経済的に厳しい状態があり、文化の助成金も減っていった時期でした。公的な助成金に頼っていては文化が伸びていかないので、それを活性化して、力強くしていくために、こういったヴィジョンが考えられ、素晴らしいアート文化芸術が、すべての人にいきわたるように、いろいろな政策がとられています。
特に最近、公的な助成を文化に使うことを、市民または文化ではない政策分野の省庁へも含めてきちんと説明する必要があり、加えて文化芸術というものが文化的価値だけではなくて、社会に対する価値や教育、経済、人の健康、幸せ、そういったものに非常に大きな効果があるということを、英国の中で、はっきりとした言葉で説明していくことが求められています。
(静止画を示し)これはアーツカウンシルイングランドの場合で、経済的、健康、教育的価値?などのデータを集めています。英国も、日本に次いで高齢化が進む中で、文化芸術で何が出来るのかと、色々な施策が始まってきています。特にロンドン以外の地方都市での高齢化が非常に進んでいる中で、その地域の美術館が市民にどういった形で役割を果たすのか、展覧会に来られる人はいいけれども、来られない人たちの孤立というのが大きな問題であり、その地域の来られない方々にどういう風な形でアプローチしていくのか。
いくつかプログラムがあります。たとえばリバプールの美術館では持っているコレクションからメモリースーツケースというレプリカを作り、とくに認知症のケアホームの方々の役に立っていただくような形で使っています。同美術館では、非常に大きなプロジェクトで、文化予算ではなく保健省の大きな予算がついたプロジェクト=House of Memoriesというものがあります。ケアホームのスタッフは、日々辛い過酷な状況の中で、非常に孤立してサポートが必要だと社会的問題となっています。その方々に美術館が自分たちのコレクションをどういう風に活用してもらい、どういう形で高齢の方々のお役にもたてるのかというトレーニングプログラムをしています。
2020年オリンピックに向けて、既にいろいろなプランニングが始まっています。英国の経験者が言うのは、オリンピックというのは「一生に一回の一大チャンス」であるということを言っています。世界中の目がロンドンだけではなく英国に向く1年間であり、そこで世界中のアスリートが来るだけではなく、世界のメディアがやってきて、この期間、どの国の新聞やテレビでも表紙の一面。これをどういう風に捉えて向かっていったか。文化芸術の分野で言いますと、予算も減って厳しい中、ここを大きなチャンスと捉えて、この先に何を残していくかというプランニングがなされました。
イギリスのオリンピックのヴィジョンはGames for EveryoneとInspire Generation。英国民だけではない全ての人のための五輪大会、次の世代の人たちにインスピレーションを与えていこうというヴィジョンを抱えての大会運営、ボランティアの参画、教育のプログラムなどが、文化プログラムへも繋がってきています。
イギリスのオリンピック後の特徴として、Legacy Gamesということを言われています。ここでいうレガシーとは、オリンピック開催後に、長きにわたって残る社会のポジティブな変化のことです。ロンドンのオリンピックにあたって、英国政府・組織委員会がいくつか目標を掲げています。その中には、オリンピックを契機に、経済、雇用を拡大し観光を伸ばすということが挙げられています。今、日本も2020年のオリンピックに向けて観光客の数も増やそうとしており、アプローチが似ているところがあるのではと思います。さらに、オリンピックはスポーツの祭典であるので、将来のスポーツ選手を育成したり、英国全体のスポーツ人口を増やしていくこと、そして社会的な活動として地域の繋がりを作っていくとか、市民の参画を増やし、社会の枠組み全体を変えていくことが掲げられました。
また、パラリンピックもあることから障害がある方々に対する市民の見方、社会の仕組みを変えていこうということも目指されました。オリンピックのスタジアムが出きるロンドンの東側(移民の方が多い経済的にも貧困層が多い地域)にオリンピックパークを作っています。そこで、大会後、東ロンドンが経済的にも発展し、コミュニティのつながりが強くなるということも目指されました。
これが文化の中でどういうことなのか。オリンピック憲章には「スポーツを文化や教育と融合する」とあり、英国は招致の段階から大きくスポーツの祭典であるだけではなく、文化面でも大きく伸ばしていこう、というような取り組みをしていました。その中で、Inspire GenerationとかGames for Everyoneの大きなヴィジョンがあって、経済そして国を成長させていこうと。文化としてどういったヴィジョンを掲げていたか。ひとつスローガンで言っているのが、Once in a lifetime=「一生に一回」。これはアスリートの方々が「本当に一生に一度の素晴らしい成果をオリンピックで魅せよう」ということで皆さん努力をするわけです。
○ オリンピックを利用し、文化はどういったヴィジョンを立てたか。
・英国と創造性を称え、世界中の人たちと分かち合う。
・発信を一方的にするのではなく、一緒に参加してもらい、若い人たち子ども達にインスピレーションを与えながら、文化芸術に対する市民の参加の機会を増やし創造性を育成していく。
・あわせて観客を拡大したり、地域を再生したり、文化、観光を伸ばしていく。
オリンピックを契機に、こういったものを後に残していこうということです。それが先ほどのGreater art for everyoneということにそのまま重なり、更にそれを加速していこうという考え方です。
○ オリンピック全体で、具体的にどのような目標を出したか。
・大都市圏に住んでいない人にも、文化芸術に触れる機会を作って観客層を拡大していく。
・文化芸術で働く人材の育成をし、雇用を増やしていく。
・デジタル革新について文化芸術だけが時代遅れにならないようイノベーションを出していく。
・美術館や劇場の中だけでなく都市のあらゆる公的なスペースで新しい活用の仕方を考えていく。
・文化芸術が環境や健康福祉にどんな影響があるかということを検証する。
・新しいコラボレーションを行なう。
・次の世代の人たちに、オリンピックを通して学習の機会を出していく、など。
○ 設定した目標を達成するために、どのようなプログラムを行なったか。
・英国の文化プログラムの特徴 1つ目 =「全国展開」
ロンドンだけではなく英国全土、隅から隅まで非常に大きなプログラムが行なわれました。多くのボランティアの方が参加をしています。このオリンピックが2012年で、その後、ロンドンデリーで英国の文化首都というプログラムを2013年から進めており、そこで大きな文化の祭典が行なわれています。また、スコットランドのグラスゴーで2014年にスポーツ大会があったり、ヨークシャーという北部の街で、ツールド・フランスのスタートの誘致をしました。その誘致をするにあたって、大きな文化プログラムを併せて行なうということで立候補しています。オリンピック2012年を経験したことによって、ロンドンだけでなく英国の地方都市でも、文化の力というものが市民・行政を含めて認識が高まり、私達の街でも何かが出来るんだ、変わっていくんだと、自信がついたと言われています。
例1:英国では非常に素晴らしい風景や土地があるが、端の方の、人がなかなか行かない所に、大きなアーティストと一緒にアート作品のコミッションをしていくことで、文化を通して魅力を作っていった。オリンピックの文化プログラムチームと、地方の自治体と組織委員会が全て一つのチームとなり実現。世界中のメディアがオリンピックに来て、開会式の前に到着してやることがなかった時にそのまま放っておくと、「そこが出来ていない」「あそこが汚い」と放送しがちなのを、バスでロンドンから英国の端の方のプログラムへ連れていったり、官公庁と文化関係者が連携をしてプロモーションを組んだり、一つのチームとして、たくさんの市民と一緒に、この期間をとらえながらメディアにも対応していった。トラファルガースクエアでの「ビッグダンス」など。
全国展開は、ロンドンだけではなく、イングランド中部のバーミンガムやコヴェントリー市を含んでいるウエスト・ミッドランズという地域などでも行なわれました。ロンドン以外の地域は、経済的にも失業率が高く人口が流失したりと課題がありますが、ここもオリンピックの文化プログラムに向けて行政と企業関係者・観光関係も含めて、非常に大きなパートナーシップを組んでプログラムを作り、ここの地域では若い人達、市民のダンスを使った参加プログラムが行なわれました。
・英国文化プログラムの特徴 2つ目 =「市民参加Participation」
アートカウンシルのヴィジョン、Everyone=全ての人。オリンピック後の特徴としては、ホスト国である英国でも実際にオリンピックを体験できる人(テレビで見る以外にスタジアムに行って観られる人)は本当に一部しかいません。あとは英国民全体、ロンドン以外の人達が、オリンピックをバックアップしたとか、オリンピックに参加することを実感できるとすれば、文化プログラムにしかなかったと思います。いろいろな文化のプログラムをほとんど無料で行ない、そこに市民の方たちが主体的に参加し、それがロンドンだけではなく英国の端から端までで行われています。その結果として、芸術の観客層の拡大を狙っていきました。
例1: 文化プログラムディレクターが「いつもの事ではなく、ここでしか出来ない一生に一度の夢 は何か」をアーティストに尋ねたところ、Jeremy Deller(ターナー賞受賞アーティスト)が「ぼくの夢は実物大のストーンヘンジを作って、トランポリンみたいなものを作って英国中をツアーしたいんだ」と言い、これを実現した。
例2:文化芸術分野で働く人材を雇用・育成をしていくために、文化芸術団体でインターンシップといった形で職業の訓練が出来るような機会を多く作った。ロンドン市長のヴィジョンで、2012年までに10万件のCreativeな仕事体験ができるポストを作るヴィジョンをオリンピック前に出していた。
例3:英国は移民の方や文化背景の方、障害がある方々を含めた非常に多様な人たちがいるという多様性を担保していく・享受できる社会を作っていくことを目標にした。英国だけでなく、オリンピック全参加国のアーティストがプログラムに参加し、特に障害のあるプロフェッショナルなアーティストが活躍できる場を作っていくという大きなプログラムUnlimitedがあった。障害のあるアーティストも無いアーティストも等しく区別なくこの大きな祭典に参加をしていった。
・英国の文化プログラムの特徴 3つ目 =「イノベーション」
この機を通して大きなイノベーション、革新的なことを業界全体で成長させていこうと、街の中で大きなプログラムも行われました。
例1:「ピカデリーサーカスサーカス」というプロジェクトでは、ロンドンの中心部の街中で、突然サーカスアーティストがパフォーマンスを行いました。これをするために、ロンドン市の文化部長を中心に2年間いろいろなところを説得。予算のない中、オリンピック時にロンドン市中にフラッグ(旗)を立てる観光の宣伝予算があったのを、その部署へ行って「それよりもアーティストの力を借りて、このプログラムをやって市民が参加する方が広報的に意義があるよ」と説得。参加したみなさんのスマートフォンによってソーシャルメディアを通じて世界中に流れていき、これが非常に広告価値も高かった。
なによりも、市民の方々にとって突然ものすごいことが起きるわけです。「これが出来るロンドンってすごいよね。」というわくわくした感じと、それまで知らなかった人たちが地下鉄で帰っていく時に、知らない人同士が綿毛もじゃもじゃになりながら話をしている。オリンピックへ向かっていく中での興奮、市民参画と都市に対する自信がついたと言っています。
例2:ロンドンの市役所で、アーティストがパフォーマンス。普段は劇場にあるものがアーティストの力を借りて都市に新しいイメージをつけていき、その新しい面を世界の観客に対しても見てもらうための公共スペースでのプロジェクトというものが多くあった。特にロンドン・英国=雨が多くどんよりして少し古いイメージがありましたが、ロンドン市長のヴィジョンの中で「オリンピックを契機に、今の社会の中にふさわしい現代的な英国の側面を出していきたい」と。こういったアーティストの作り上げていったプロジェクトがあった。
例3:Martin Creedというアーティストが「オープニングの開会式の前に、英国中の鐘を皆で鳴らそう」というプロジェクトを行なった。教会がないところは自転車の呼び鈴でもなんでもいいから、鐘を何日の何時何分に鳴らしましょうという大きな市民参加型プロジェクト。ビッグベンの鐘を、決まった時間と違う時間に鳴らすということは、これまで何年も行なわれていませんでした。こういった「Once in a lifetime=一生に一回のこと」を交渉しながら実現していった。
(映像を流しながら)都市のこういった公的なスペースでプロジェクトが行なわれました。またその建物を使った大きな新作をやったり。これは、ヘリコプターの中で楽器を弾いていましたが、ほぼ上映が不可能と言われているカールハインツ・シュトックハウゼンのオペラがありまして、4機のヘリコプターを使って弦楽四重奏のユニットをそれぞれ乗せて街の中でプログラムを行いました。このプログラムに参加した人たちは290万人。若い人の割合が非常に高く、素晴らしかったのがと思うのがロンドンではない地方都市でありながら、ワールドプレミアの新作をコミッションしたり、UKプレミアもあって、地域外からの参加者や観客が多く、それに伴なう観光収入など経済効果があったと言われています。その他ボランティア、スポーツも含めて多くの市民が参加し、新規の雇用が130万人ありました。多いか少ないかと考えた時に、文化の中で雇用やポストが生まれたことが、非常に大きなことだったと思います。その中で、これを実現するために地域間で新しいパートナーシップが出来上がったということも意義のあることでした。
オリンピックの文化プログラムの窓口を担当していた方が忘れられないと言っていたのは、あれだけの街のレベル・スケールでリハーサルをしなければならない中、街の上にヘリコプターが4機飛んでいて、そこに警察の方がSNSで「皆さん心配しないでください。これはアートプロジェクトのリハーサルです。」とツイートし、警察までもが文化プログラムをする協力者として市民に対応したことが成功の証しだと言っていました。
○ 英国でオリンピックがあるということを、海外へ広報していく時にされた取り組み
オリンピックにあわせ、英国政府ではあらゆる分野で海外の国々との関係を作っていこうと、大規模なキャンペーン=「GREAT」を行ないました。ビジネス、教育、文化そのほかあらゆる面で英国と海外を繋いでいくといった大きなプロジェクトです。特徴は、文化を含めて教育、起業、経済、ビジネスあらゆる省庁が連携して行ないました。当初は2009年から2012年までに終わる予定のプロジェクトだったのですが、非常に効果が高く今も続いています。その中で残った一つとしては、省庁間連携というか縦割りになりがちなものを横にも繋がったとも言われていました。
○ 巨額な税金を投入されたオリンピックという一大事業がどうだったか。
2012年の後から毎年いろいろなレポートが出ており、政府主導のレポートは2013年2014年と一年毎に出ていました。当初設定したいろいろな目標の中でどこまで変化が起きているか、例えばコミュニティーの繋がりが強まるとか、経済効果というものはすぐ出るものではなく、長期的でないとわからないものもあり、それをモニターしながら大きくレポートが出ました。
昨年出たレポートの中では、経済効果が非常に高かった、英国のビジネスの伸びが高く、当初4年間で達成しようとしていた目的を2年で達成したと発表されています。併せて、2012年のオリンピック後にブラジルのリオでサッカーのワールドカップがあって、2016年にリオのオリンピックがありますけれども、そこに向けて2012年を経験した英国企業のビジネス契約をとっていくといういろいろな後押しが順調にあり、観光客の数も非常に伸びています。オリンピック直後から若干落ちましたがそれは予想されていたことで、その後にかなり伸びています。これは英国へのイメージが上がったのと、オリンピック効果が高かったこと、街のインフラが上がったことが考えられます。2013年には、ロンドンが世界で一番観光客が多い土地となりました。それまではパリが多かったのですが、2012年には「ソフトパワー」という文化的なランキングでイギリスが1位になりました。日本の森記念財団の「世界の都市ランキング」では、2012年の後にはロンドンが1位になり翌年も続きました。これがオリンピックの時だけ盛り上がってストンと落ちてしまうのではなく、その先どういう風に成長していくのか、どういう風にインフラを残していかなければならないのかがLegacyだと思うので、それを目標に目指して作ったオリンピックとしては、なかなかいい成果が出ているのではないかと思っています。
今、政府ではロンドンだけでなく、ロンドン以外の街の活性化・観光促進に力を入れている中でオリンピックというのは非常に効果があったと思います。英国政府が2009年位に決めたものですが、「欧州文化首都」というプログラム=欧州の中でいろいろな都市を文化首都に選んで都市を盛り立てていく、という仕組みがあります。英国政府が英国の文化首都、City of Cultureというものをやろうと決め、第1回目は2013年にロンドンデリーが立候補をして行ないました。その次が2017年になります。2013年に、英国内の都市に立候補をお願いしたところ、いろいろな都市がオリンピックを経験した後で、文化の力を各都市が実感しており、たくさん手が上がった中で決定したのがハルという街です。
ハルという街を皆さん聞いたことがありますか。人口は25万人程度で、青森市より少ない街です。ハルに決定した時の新聞記事は、英国内でも「ハルってどこだか知らないよね」「北の方のどっか」という感じです。就業・就職していない人が多く失業率が高い。将来に対する市民の希望が少なく、教育も都市に比べて平均も低い。ネット環境も非常に悪く、観光客にいたってはフェリーターミナルはあるが人が通り過ぎていくという課題が山積みするハルの立候補。これを2017年の文化を使って、ハルを一新するトランスフォーメーションを起こすということで立候補をしました。今、見ていただいている映像は、立候補の過程の中で作ったものです。映像を見ていただくと街がちょっとまだ荒んでいるのがわかりますが、2013年にハルが文化首都に決まった後から、変化が起きています。ハル発、英国全土で2017年文化が盛り上がっています。いろいろなところから大きなプロジェクトをするコミットメントがあることを、最初は市民も信じてなかったんですね。誰も賛成はいなかったですが、今は8割から9割の市民がこれを是非やって欲しいと変わってきています。既に広告効果も高く、ロンドンオリンピックの開会式を仕切った方がハルのディレクターになったり、ロンドンからディレクターの方々がかなり移ってハル市民となっています。あと2年ですが「ハルから英国の未来を作っていこう」と。2017年に向けて注目して見て下さい。若い人達が将来のヴィジョンをもって暮らせる都市にしていこうとする大切さを。
英国のオリンピックの前~開催中~今の動きというものをいろいろお話しましたが、英国の文化プログラムで、オリンピック全体を体験した人が必ず言うのはパートナーシップが非常に大きいと。これはいろいろなレポートが出ていて、経済効果だとか、観光客の数などについて書かれていますが、何よりも代えがたいのがオリンピックを経験することによって「新しいパートナーシップを築いた」ということを言っていました。
例えば、ロンドン市の文化部長、文化プログラム関連の方、国の方と、普段だとなかなか話をしていなかったのが電話やメール一本でお話が出来るようになった。文化と観光、文化と経済、文化と地方行政間に、今まで垣根があったところが、一つのチームになったことによって、色々なネットワークが出来てきた、企業との関係も高まったというのは「何事にも代えがたい財産」ということを言っていました。おそらくそれがLegacyの一つだと思います。英国でオリンピックに関わった皆さんが言うには、オールUK=一つのチームとして、1個の大きなフェスティバル・1個のヴィジョンを作ってやったというところが大きいです。そして英国全土で、スポーツの大会も文化も1個のブランドで1つのストーリーを作っている。このオリンピックで一番大事なことは、英国のストーリーを海外の方、世界の方に伝えていく大きな機会になるということです。
日本においても、多様性のある日本文化~日本の都市の中で、どういうヴィジョンを描いていって、世界の方たちにどう伝えていくのかというのは、これからの作業になっていくと思います。英国ではそれぞれの地域毎の課題や戦略がある中で、一つのチームであったことが良かった。そして明確なヴィジョンとLegacyをプランにしながらやっていったことも。その他、あらゆるプロジェクトについても交渉していましたが、文化芸術の中でこれだけの規模のものをやる時に説得が出来る人材、文化以外の警察関係者とか福祉の関係者、行政の関係者、観光の関係者と話が出来る、説得が出来る人材というのがすごく必要になってくると思います。日本も2020年の先を描いた中で2015・16・17から、現場でやっている方々が更に大きな夢を見れるように育成していくことが大事なのかなと思いました。あと文化プログラム経験者から、英国の場合、高いヴィジョンを掲げたOnce in a lifetimeであり、あの年はその結果がそこそこでは許されなかった。アーティストに対して、市民に対して一つバーが上がったものは下げづらくなってくることで、英国の文化全体を上げていく、いい後押しにもなったということも言っていました。とはいえ、英国も実はそう簡単に実施できた訳ではなく、やりながら試行錯誤の日々だったようで、いま出来る事ならやり直したい、新しくやるならこういうやり方があるんじゃないかとか言っています。成功と失敗があった中で、これから2020年に向けて、こんなやり方も良かったんじゃないかと、もっともっとシェアしていきたいということも言っていました。ブリティッシュ・カウンシルとしても日本の皆さんと、英国の、例えばハルだったり、色々な都市の方と繋いでいくようなことが出来ればと思っています。ちょっと時間が長くなりましたが、最後に映像をご覧いただいて終わろうかと思います。
(映像6)
これは聖火リレーの映像ですが、英国の聖火リレーは英国全国の9割の人が1時間以内で行けるところをルートとして選んであります。イギリスの端~東の端から大きく回っていく中で、市民のワクワクが高まっていったと言われ、この聖火リレーと文化プログラムが密接に関係していたようです。このワクワクが英国全土に回っていったのがオリンピックだったということでしたので、2020年のオリンピックは東京だけのものではないと思います。この市民参画というのが非常に大きかったというのが、この映像を見てもわかると思います。
今日はありがとうございました。