青森公立大学国際芸術センター青森(ACAC)学芸員 金子由紀子さん
もともと、子どもの頃から絵を描いたりするのが好きで、大学でも美術の勉強をしました。
仕事としてやっていきたいと思ったきっかけは、10年前に参加した「青年海外協力隊」というボランティアの際、海外で美術を教えたことです。行った国では、いわゆる「ファインアート」のようなものも「美術の授業」もないのですが、国の人は演劇がうまく、村の中で受け継がれてきたダンスがあったり、子どもにクレヨンを持たせると誰でも楽しそうに絵を描いていました。アーティストじゃなくても、誰もがそういう「表現したい」という欲求はあって、その欲求を出していく力が、創造性がある!ということを感じました。
日本では、学校での美術や図工の時間がありますが、社会人になるとなかなかそういう機会がなくなってしまうため、美術館や文化施設でそういう場をつくっていくことを仕事にできるのではないかと思い、こころざしてきました。
「誰もが持っている、創造的な力」を、発揮できるような場所をつくっていきたいと思っています。
アーティストと一緒にやることで開花するものかもしれないし、もともと探している人もいるかもしれないし…。いろいろなパターンがあると思うのですが、この仕事を通じて、そういう人たちの期待に応えられるような、人を刺激するような場所をつくっていきたいと思っています。
また、ここ「ACAC」で働いていて、アーティストの仕事を間近で見ることで、自分自身がすごく楽しく、ワクワク仕事しているので、「こんなに楽しいんだよ」ということが、もっと伝わるような「しかけ」をつくっていけたらと思っています。
例えば「現代美術」ですと、何が書かれているのかわからない絵があったり、私たちが日常で使っているものを組み合わせて作品にしているものなどがあったり…。「わからない」と言われることが結構多いのですが、その「わからない」ということが許されていることが魅力だと思っています。
「きれいだな」と思ったり、「わからないけど何なんだろうな」と気になったり、「この作品嫌いだな」と思う人もいるかもしれません。そういう「作品を観て何かを感じる」「人間の心の動き」というものや、好きとか嫌い・キレイとかとか汚いと感じることは、他の人が否定できることじゃないと思うんですよね。
「キレイ!」と思ったり「いやそれは汚いでしょ」と思っても、誰にも言えない、すごく個人的な「心の動き」が保障されているところや、「そう思っていいんだよ」ということが保障されている。『芸術に触れる』ということで起こる「心の動き」の自由さが保障されている、ということろが魅力だと思います。また、そういうものがこの世界にあってほしい、と思っています。
金子由紀子 かねこ ゆきこ
青森公立大学国際芸術センター青森(ACAC)学芸員。
1978年秋田市生まれ。東京造形大学大学院修了。専門は美術教育・美術館教育。2006年から2年間青年海外協力隊に参加、トンガ王国アホパニロロ職業訓練学校美術コースにて講師を務める。
2011年より現職。
「船井美佐展 楽園/境界~いつかいた場所~」(2017年)「野老朝雄×青森市所蔵作品展 個と群」(2016年)等展覧会や「ラジオワークショップ ACAC Now On AIR!」(2014-15年)等ワークショップの企画、ACACに年間1200人以上訪れる青森市内の小学生への創作体験の指導などを行い、様々な世界にアクセスする手段としての芸術と教育の可能性について考察し実践を重ねている。