アートな「人」紹介

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青森公立大学国際芸術センター青森[ACAC]学芸員 服部浩之 氏

アート・音楽に興味をもったきっかけを教えてください

服部氏

子どものころから絵を描くのが好きでした。特に風景に興味があり、風景を描く仕事はどういったものがあるだろう?と考えた結果、大学で「建築学科」を選択することに決めました。
建築は日本だと理工系と考えられていますが、元来総合芸術と言えるものです。建築から自然にアートの世界に入りました。 大学在学中に、「考現学」を提唱した青森出身の建築学者『今和次郎』の存在を知り、考“現”学という学問を“今”和次郎という人がやっているというのがおもしろくて、ずっと覚えていました。 その後、芸術に関する本を読んでいくなかで、『今和次郎』の考現学を継承したかたちで、『路上観察学会』という名称で、街のいたるところに潜んでいる、人が気にかけることはあまりないけれど魅力的なものや風景を発見していく活動を知りました。その主要メンバーであった赤瀬川原平さんの作品に興味を持ったことが、現代アートに傾倒していくきっかけとなりました。

アートに感じる「魅力」語る服部氏

アート・音楽に感じる「魅力」を教えてください

一番大きな魅力は“わからなさ”を共有できることです。
今の世の中では、 “わかる”ことや“容易さ”が重視されがちです。しかし、多くはわかった気にさせられているだけで、誤魔化されているように思います。 “わからない”ことを認めて、その“わからなさ”を探求することには価値があると考えています。アーティスト(特に現代アートに関わる作家)の多くは、“わからない”ことやささやかな疑問を見過ごさないで、それらを人と共有し考えるきっかけとするように作品をつくっている側面もあると思うのです。 例えば、社会に対して「これはおかしいんじゃないか?」と思うことがあっったら、その疑問を作品というかたちで提示することで、不透明な問題を人に向けて公開し、みんなで考える端緒を生み出します。それによってオルタナティブな意見や価値観を引き出す力がアートにはあると思いますし、それが魅力だとも思います。
「キレイな絵画だ」で終わってしまうのではなく、「背景にはどういう意図があったのか?」、「なぜこの人はこういう絵を描くのだろう?」と考えることが好きです。経済的合理性や効率性を優先して最短距離で一見正しいと思われてしまう安易な答えのようなものを提示するのではなく、あえて遠回りをしながらゆっくりと現在の社会におけるいろんな“わからなさ”を目に見えるかたちにして考えるきっかけをくれるものとして、アートにはすごい魅力があると思っています。

これからの活動を語る服部氏

これからどんな活動をしていきたいですか?

これからの地方都市は、どんどん人口が減っていくと思います。
人口減少は絶対に防げないと思うので、人口を増やそうとか、より経済的に成長していこうとするいわゆる単純な上昇志向の価値観では未来は開けないと思います。 もっと“違う価値観”や“違う生き方”の提示ができればおもしろいし、必要だと思っています。私は最近、アジアの同世代の人と一緒に展覧会をつくる仕事をきっかけとして、アジアのさまざまな地域に行っているのですが、アジアにはそういった“違う価値観” や“違う生き方”があふれています。日本はというと、急速に経済成長を遂げたことで物質的には非常に豊かになったけれど、結局その先の本質的な「豊かさ」とはなにかを考えることを蔑ろにしてきた結果、現在なんとなく元気がないし、それを打破する “違う価値観”や“違う生き方”を考える力が弱っている気がしています。 現代美術の世界でも、例えば日本では展示に必要な効果な機材が比較的容易に入手できますが、アジアの国々ではそういう機材が手に入らないということはまだまだ多々あります。しかし彼らは、そこで諦めたりはしません。「無いならどうしようか?」と知恵を捻って別の方法を考え、代用できるものをつくったりするなど、創意工夫でその困難な状況を最大限に楽しみながら乗り越えていきます。彼らのもつ知恵や創造性から得たものを、私たちの暮らす青森にフィードバックしていき、経済原理だけでは測れないもうひとつの豊かさや価値観を築いていければと思います。地方都市で創造的に愉快に生きていく方法を模索していきたいですし、アートはこれからの生活のあり方を考えるいろいろなきっかけを与えてくれるのではないかと思っています。

服部浩之 氏プロフィール

服部浩之 はっとり・ひろゆき

青森公立大学国際芸術センター青森[ACAC]学芸員(2016年1月末退職)。1978年愛知生まれ。プロジェクトスペースMidori Art Center(MAC)主宰。早稲田大学大学院修了(建築学)。青森を拠点に、アジア各地を巡りながら活動中。つねに「オルタナティブなあり方」を意識の根底に据え、建築的な思考をベースに様々なプロジェクトを企画運営し、アーティストとともに場をつくり日常生活を創造的に拡張する試みを実践している。十和田奥入瀬芸術祭「SURVIVE -この惑星の、時間旅行へ」(十和田市現代美術館、奥入瀬地域、2013年) 、国際交流基金主催展覧会「MEDIA/ART KITCHEN -Reality Distortion Field」(ジャカルタ、クアラルンプール、マニラ、バンコク、2013年-2014年)キュレーター。

国際芸術センター青森

住所〒030-0134 青森市合子沢字山崎152-6
電話番号017-764-5200
FAX番号017-764-5201
Eメールacac-1@acac-aomori.jp
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